順天堂医院 春の先端医療体験レポート

追い続ける夢 実現間近 4日目:田中里佳教授に密着

4日目からは、臨床と研究を両立する田中里佳・主任教授に密着しました。田中教授は形成外科医として患者さんを診ながら、再生医療によって足の疾患を治療する画期的な研究開発に取り組んでいます。

「現在、世界では30秒に1本の足が切断されています。多くは糖尿病などによる難治性疾患の患者さんで、血が流れなくなると患部が壊死して切断を余儀なくされる。そして、問題は切断後の死亡率が極めて高いこと。1年後生存率は約20%と言われていて、5年後生存率はほかの悪性腫瘍よりも低いんです」
 
血液と血管、足の健康がいかに大切かを力説した田中教授。ライフワークである血管の再生医療研究について熱く語ります。
 
「“第二の心臓”と言われるほど大切な足の切断を防ぐにはどうしたらいいか。自分自身から採取した自己幹細胞を使えば血管を再生できるのではないか?学生のときそう考え、研究に取り組んでから15年。高品質・大量の血管幹細胞を増やす培地の開発がようやく実を結び、現在治験を行っています。細胞製剤として販売するためのベンチャー企業も作ったので、この5年のうちに実用化したい考えです」

田中教授はアメリカ・ロサンゼルス生まれ。父親の経営する会社が倒産した経験から、「手に職をつけたい」と痛感したことや病院ボランティアをしながら医師を目指したこと──山あり谷ありの過去を織り交ぜながら、「1日でも早く患者さんに治療法を届けたい」と語る姿に、生徒たちも引き込まれていきました。
 
午後、生徒たちが向かったのは順天堂の研究中枢である7号館。研究フロアは基礎系と臨床系の研究室が同居するオープンラボで、田中教授の血管再生医療研究室では国内外のスタッフたちが働いています。
電子顕微鏡で撮影した2種類の画像を説明してくれたのは、研究員の平野理恵さんです。
 
「左は患者さんから採取した血管内皮細胞。右は同じ血管内皮細胞に、RE-01という血管幹細胞を混ぜたもの。両方とも2時間培養しているけれど、右は内皮細胞がものすごく増えているでしょう?細胞同士もくっついている。RE-01に血管を形成する力があることが分かります」
 
現在、製品化を目指す血管幹細胞RE-01の治験が順調に進んでいること、実際に患者さんの傷に効いていることなどを詳しく解説したうえで、こう伝えてくれました。

「私たちは表に出ない裏方。地道にデータを取り、検証し、そして細胞を作って患者さんに届けるのが仕事です。この血管再生研究の成果が、世界で困っている人たちに届けられたらいいねと皆で話しています」

RE-01細胞の効果を確認(マウスのモデル)

血管幹細胞の研究は世界中の多くの人を幸せにできる可能性がある。初めて知る分野ながら湧き上がってくる興味はとてつもなく大きなものでした。また研究職は患者さんと関わることができないと考えていたのですが、思い込みに過ぎませんでした。命を助けるため日々緊張感をもって研究に取り組み、誇りをもって仕事をしている姿は輝いて見えました。


【午前】再生医学の医局で田中教授レクチャー--日本医学教育歴史館を見学
【午後】血管再生・治験研究の現場を見学