生徒たちの地域医療体験レポート(2023夏・南砺) 

8月中旬の土曜日、富山県の南砺市民病院に3人の高校生が集まりました。日曜日はフィールドワークを行い、月曜から金曜夜までは5日間の地域医療体験です!

・医師に必要な「人間力」を知りたい Aさん(鷗友学園女子高校)
・夢はスーパー外科医! Fさん(千葉・市川高校)

・過疎地域の医療を知りたい Yさん(富山県立富山中部高等学校)

それぞれ何を経験し学んだのか──生徒たちの声を紹介します!

私の身近には医療従事者がいません。医師として働くということがどういうことなのかを確認したいと思い、この医療体験に参加しました。また、参加前は医師の数を増やせば他の職種の仕事もカバーできて、医師だけで病院を運営していくことができるのではないかと思っていました。

しかし、実際に医療現場に入ってみると看護師やリハビリスタッフ、検査技師など多くの職種の方がそれぞれとても大切な仕事をしていました。そうした多職種の連携と協力があるからこそ、医師は患者さんに医療を提供できるのだと分かりました。患者さんが悩みを話しやすい職種もあって、やはり医師だけでは病院は居心地の悪い場所になりかねないなと感じました。

医師として働くとこととは、「毎日生身の人間を相手にする」ということも体感しました。多様な個性を持つ患者さんたちと全力で向き合っていると、時には疲れることもあるかもしれません。でも、大げさに言ってしまえば病によって止まりかけた人生を再び動かす手伝いのできる、とても重要な仕事だと知ることができました。

私は外科医になりたいので、外科手術の体験を特に楽しみにしていました。2度の手術見学では、術野を目の前で見せていただきながら、説明もしてもらい、とても貴重な体験となりました。自分の手で手術をして患者さんを治す外科医は、勇敢でやっぱりかっこ良かった。

医師以外の医療職にも魅力を感じました。手術も医師だけではできません。看護師、画像診断の技師、薬剤師…それぞれの仕事に誇りとやりがいがあって、どれも魅力的でした。病院内のほぼすべての職種を見た上で、やはり私は外科医になりたいと改めて感じることができました。

患者さんが苦しそうにしていたり、手術を受けられない状況にいたりするのを見て、何もできない自分に不甲斐なさも感じました。でも、「高校生の私でも患者さんの話し相手になったり、笑顔にしたりすることはできるんだ」という発見もありました。病気を治すだけでなく、人を笑顔にすることができる職業でもあることを知って、より憧れました。

個人的に驚いたのは、医師や看護師の多くが家庭を持っていたことです。ネット情報では「女性医師は忙しくて結婚しない人が多い」とあります。ところが、南砺市民病院の皆さんは家庭があり子供がいて、帰宅後は家事をして、翌日も働きに行くという生活をしていました。休日になると朝からマラソンをしたり、子供のサッカーの試合観戦に出かけたり。疲れを見せずに仕事と家庭を両立する姿は本当にかっこいい。医師になるだけではなく、家庭と両立するという夢もできました。

南砺市民病院の医師やスタッフは全員謙虚で温かく、それでいて一人ひとりから強い志を感じました。医療職は、本来であれば出会う予定のない人と絆で結ばれる素敵な職業だと思いました。

総合診療医には「広く浅く」というイメージがありましたが、全くそんなことはありませんでした。様々な分野に精通していて知識は豊富、治療も可能な限り行うということで万能。そんな印象を受けました。

今でも忘れられないのは、消防からの要請で出動したドクターカーに同乗させてもらったことです。無線の大音量とサイレン音が交錯して頭がパンクしそう。でも医師、看護師、業務調整も行うドライバーの3人チームは冷静沈着で、プロフェッショナルな姿が印象的でした。緊迫した現場でもチーム力は発揮され、その勢いや迫力に圧倒されました。

今回、ドクターカーが向かったのは、倒れて意識がないという方のご自宅。私たちが着いた時には既に心肺停止となっていました。現場でも病院でも、懸命な蘇生が行われたのですが残念ながら助かりませんでした。ご家族も覚悟されていたようで、医師たちに感謝を伝えていました。誰かに「ありがとう」と思ってもらえる職業の重みを、命を預かる現場だからこそ強く感じられました。

実は、人が亡くなるのを目の当たりにするのは今回が初めてのことです。生と死は一瞬で境界を越えてしまう世界だと感じられ、怖くもありました。でも、死は誰もが逃れられない絶対的な運命だということも分かります。もう切なくて、うまく説明できない気持ちで胸がいっぱい....。心からご冥福をお祈りしました。

大浦誠医師の病棟回診でも大切な学びがありました。回診は、患者さんの体調を確認するためものではないということです。治療を安心して受け入れてもらうために、患者さんとの信頼関係を構築する時間でもあるのだと気づきました。主治医が頻繫に回診に来てくれて話してくれる安心感は、患者さんにとって家族と会うのと同じくらい意味のあるものだと思えたのです。

ドクターカー出動で救命処置を行った小川太志医師から説明を受ける

訪問看護に同行した際、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんからかけていただいた「ありがとう、がんばってね」という言葉です。指先と顔の筋肉を少ししか動かせないにも関わらず、その表情はとても豊かだと感じられました。コミュニケーションツールのボタンをカチカチと押して、看護師さんとやりとりする姿に目を奪われました。難病を患っているのに前を向いて生きていて、しかも、初めて会った高校生の私を応援してくださった優しさ…。この体験は一生、忘れません。

「(夫は)見える、聞こえるができる。本当に生きてくれていて良かった
「まだこの人に付き合えて良かった。けれど、思っていることを言えたらもっと良かったなと思う」

これは、訪問診療に同行した際、患者さんの奥様が話してくれたことです。ご主人はケガによって寝たきりで失語障害にもなっていました。奥様のことが分かるのに、その思いを伝えられないのです。この辛い現実に、「私が奥様の立場だったら」と考えてしまいました。切なさと己の無力さを感じ、涙を堪えるのに必死でした。でも、奥様の言葉で、どれだけ現実が厳しくても「生きている」ということは他の何にも代えられない価値や意味があるんだなと考えさせられました。

訪問診療で先生方は「〇〇見させてもらいますね」「痛いですね、ごめんなさいね」「ありがとうございます」など、患者さんに共感したり思いやる声をかけていました。ご家族も本当に協力的で、「生きていてくれているだけで嬉しい」と話す方もいました。寝たきりだとしてもその人の命の重みに変わりはない。そうした患者さんたちの命を支える訪問診療はすばらしい取り組みだと感じました。

大浦医師の「患者さんは千差万別。一人ひとりの意見を尊重して、それを叶えるために多職種連携で総力戦をしている」という言葉もとてもかっこいいと思いました。

手術を見学

地域の人々を知る、という点で大きく役に立ちました。どの人も南砺市を誇りに思っているので、そのような気持ちがあることを尊重して、患者さんたちと接することができました。また、面識のない、歳も離れた方と話すという練習にもなったと思います。

下調べの段階で、富山県の胃がんの罹患率が高いことを知り、その原因を突き止めたいと考えました。胃がんの要因の一つに塩分過多や野菜不足があることが分かり、さらに富山県の野菜摂取量が全国でも下位にあるという調査もありました。

そこで、フィールドワークでアンケートをすると、「ご飯が美味しいから、味噌や昆布などの塩辛いものを求めてしまう」「魚はやっぱり刺身、刺身には醤油」という回答がありました。また、「富山は農業が盛ん。稲作が多いから、どうしても野菜摂取量が少ないのかもしれない」と多くの方が指摘しました。

車窓からの景色を眺めると、やはり育てられている作物の多くがお米でした。黄色く色づきはじめていて、たわわに実るコメの重さでしなるまで育っていました。私の住んでいる東京では見られない景色です。研修中、富山産米を買って食べてみると本当に美味しかった。「お米と塩辛いものをたくさん食べる」という人々の気持ちが理解できました。このことを患者さんと話すと、共感してもらえました。地域を知るという活動は、医療現場でも意味があるのだと実感しました。

準備やアポ取りなど大変なことも多かったですが、フィールドワークは良かったと思います。

患者さんと話すとき、バックグラウンドを知っていたからこそできた話もありました。農業や施設のことなど、患者さんも「この町のことを知ってくれている」という実感がわいたほうが、私たちを受け入れやすいのではないでしょうか。

フィールドワークでは、先々で「頑張ってください」と励ましてもらいました。「私は今この街にお邪魔させていただいているんだから、しっかり学んで帰ろう」と思う原動力になりました。

特産の和紙(悠久紙)の工房で、原料となる楮の木について教えてもらった

私は先入観や偏見などが少なく、仮にあっても柔軟に対応して正しい判断ができる人間だと思っていました。

ところが、今回の医療体験に参加したことで、私には聞いたことを鵜呑みにしてしまうところがあると気づきました。例えば、訪問診療先などで医師から話を聞くと、それから推測されるイメージで患者さんを見てしまいそうになりました。しかし、患者さんと医師の視点は当然異なり、どちら側から見るかで事実は大きく変わります。今後は、片側からの意見を聞いたときにはもう片方の考えも確認して、偏った見方にならないようにしなければならないと思いました。

また、訪問看護などに同行したことで、地域医療のあたたかい関わり合いにとても惹かれました。以前は大学病院で外科医として働きたいと思っていたけれど、この医療体験を通して、総合診療科やその他の科に興味を持ちました。

私の身近には医師がいません。憧れるのはドラマやインターネット上の医師で、きっかけの一つはドラマ「ドクターX」です。「私、失敗しないので!」という決め台詞で、どんな難しい手術もこなしてしまうアレです。自分の手で執刀して人を生かすことが一番の方法で、それが最もかっこいいと思っていました。

しかし、今回の医療体験で「手術をしない方が幸せ」という場合があることを学びました。これに気づかせてくれたのは、がんで入院している90代の患者さんでした。手術を選ばず、緩和ケアという選択をしていました。この患者さんとの出会いを通じて、患者さんに残された人生を思い通りに生きるための治療やサポートもあるのだと知りました。やはりドラマはドラマであって、現実を知ったことで考え方が変わりました。

医師になりたいという願望はありましたが、他にもたくさんの夢がありました。この医療体験で救急や手術など現場のリアルに触れたことで目指したい道が見えた気がしています。南砺市民病院では全てのスタッフが患者さんのことを常に思い、職員同士がリスペクトしあい、さらに患者さんもスタッフに感謝しているように感じられました。私も、そんな病院で医師として働きたいと思っています。

完全防護の術衣を着てみて「え、こんなに重いの?」

医師になれたら....様々な境遇の人々に手を差しのべたい。弱音を吐けない人たちの気持ちを楽にしてあげられるよう、話をしっかりと聞ける医師になりたいです。

今まで私は、どちらかというと「話を聞く」という点にフォーカスを置いていましたが、人の話を聞きすぎてしまう癖があるようです。南砺市民病院で5日間を過ごしたことで、「いかに人の心に寄り添うか」は変わらず大切にしていきたいと思いましたが、「どう話すか」という点も気にする必要があることに気づきました。

将来は十分な共感性を持ちつつ効率的に話を進めることのできる、また、その話も患者さんの理解度や気持ちに合わせながら進めることができる、そんな医師になりたいです。最新の医学・医療に精通していることは当たり前のこととして、倫理観も優しさも勇気も持ち合わせている、一人の人間としても魅力的な医師になるのが目標です。

「手術が上手な外科医」ではなく「患者さんのことを第一に考えて治療できる外科医」になりたいと思うようになりました。

見学した手術の一つは、開腹ではなく腹腔鏡での執刀でした。医療側には時間と労力がかかっても、患者さんの負担が少なく、社会復帰が早い手術方式を選んだと知りました。最新の画像分析や検査でも分からなかった癒着のため、2時間で終わるはずの手術が5時間かかりました。でも、執刀医は集中を切らすことなく患者さんに向き合っていました。当たり前かもしれませんが、患者さんのために尽くすという姿勢に惹かれました。

私も患者さんのことを一番に考え、患者さんに最も適した手術で病を治すことのできる医師になりたいです。

向上心溢れる医師になりたいです。医療体験中は清水幸裕院長先生の医療倫理の講義を聞いたり、特定看護師になるための講義に同席したりして、病院の中で学びが続いていることを確認できました。常に最善の医療を提供するには、日々進化する技術を吸収する必要があります。それに食らいついていく向上心を大切にしたいと思います。

また清水院長は、「医療従事者に技術があるのは当たり前。結局は人格、人間性だ」と教えてくれました。患者さんへの敬意や感謝、責任感などを忘れず、人間力のある医師になりたいです。

最終日、高校生向け医療体験をサポートしてくれた荒幡昌久医師と記念写真!