2022 地域医療体験レポート

地域医療体験、1-2日目

7月25日(月)、志摩市民病院での医療体験が始まるのですが....
実は約1か月前に行われたオンライン・ミーティングで、江角院長は高校生4人にこんな課題を出していました。

「君たちには一人ひとり入院患者さんを受け持ってもらいます。自分が担当する患者さんを笑顔に、そして幸せにしてください」

多くの患者さんは高齢で、100歳を超えた方もいます。どのような病気で入院し、現在の不安や悩みは何なのか。世代が全く異なる人と、どうやって会話をしたらいいのか。

「課題を達成できなかったら、どうなるのですか?」
生徒からの質問に江角院長はニヤリとして、こう答えました。
「留年!達成できるまで居残りです」

4人にとって大きなチャレンジとなる医療体験学習。2日目まで動画で紹介します!

1日目

2日目

1日目

◆朝の回診は全員参加
午前7時半過ぎに病院入りした生徒たちはまず検温。スカイブルーのスクラブに着替え、消毒薬を入れた携行ポシェットを肩からかけて準備完了。朝礼で自己紹介が終わると、いよいよ病棟回診の同行が始まりました。

時は2022年7月下旬、新型コロナウイルス感染症・第7波の真っただ中。医療従事者以外は厳しく制限されている病棟に入るのですから、ここからは“未知の体験”の連続です。4人が見守るなか、江角院長を含む常勤医4人は70を超える病床を回り、ベッドサイドで患者さんの心配事などを丁寧に聞き取り、身体所見をとります。そして、回診中も医師たちはたびたび足を止めて生徒向けの“即席勉強会”を行います。

例えば、骨折で手術を受けた患者さんの回診後 
江角:みなさん、お年寄りに多い骨折を挙げられますか?
生徒:手首ですか?
江角:その通り。では、原因は何でしょう
生徒:転んでしまうためだと思います
江角:そう、転んで手をついてしまうからですね。転倒はお年寄りにとって怖いんです。特に、足の付け根の骨を折ってしまうと寝たきりになってしまうリスクが高くなります
 
「転倒予防のため、医療従事者や家族にできることは何か」までを生徒たちに考えさせるのが江角流レクチャーで、答えを導き出せないときは宿題となります!

◆午後からは希望した体験を
午後からは生徒それぞれが希望した医療体験の時間です。
初日、K君とNさんは訪問リハビリに同行して渡鹿野島という離島へ。O君は引き続き江角院長に密着し、午後からは受け持ち患者さんと交流しました。

生徒たちの1週間のスケジュール表

◆問診にチャレンジ!
長崎から参加したF君は外来診察を見学。次々と訪れる患者さんに江角院長が時間をかけて対応するのを、診察室の隅で見守っていたのですが.....

「じゃあ、次は君が問診してみて」
江角院長の突然の指示にF君はパニック寸前。でも、目の前では患者さんが診察を待っています。もう腹をくくるしかありません!

「医学の知識がないため、不安でした」
夕方、F君は初めての問診チャレンジをこう振り返りましたが、江角院長は彼の姿勢を高く評価しました。
「上出来だったよ。医学部で勉強すれば医学的なアドバイスはできる。大切なのは、しっかり患者さんと向き合えたことです」

問診にチャレンジするF君

◆大切な振り返り
夕方には振り返りのミーティングが行われ、生徒たちはそれぞれの体験を発表し合いました。一人ひとりの学びや気づきを共有し、医師の評価やアドバイスを踏まえ、次に何をすべきかを考えるのです。

こうして長い初日が終わり、病院を後にした生徒たちはスーパーマーケットへ。夜ご飯の食材を購入して病院宿舎に戻りました。この日の男子3人の夜ご飯は、F君持参の長崎皿うどん。もちろん自炊です!

2日目

「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」
病院入りをして、生徒4人が最初にあいさつをするのが理学療法士の清水敦さん。4人がアラームで目覚める時間には既にリハビリ室入りをして、静かな環境で仕事を始めるのが日課だといいます。医師たちも朝のカンファレンス、各地の病院と情報交換をするオンライン会議をこなしてから病棟回診に向かいます。
「病院の朝は早い」ということを身をもって学んだ4人でした。

◆O君の計画
O君の担当患者さんは90代の女性。自宅の玄関先で転倒して骨折、リハビリ目的の入院は2か月目に入っていました。
「とにかく退屈」という患者さんのためにO君が思いついたのは、コロナ禍で使われなくなった院内のピアノを演奏することでした。
社会福祉士の小堀郁美さんに相談すると、「すごく良いアイデア。でも実現するには感染対策が必要。看護部やリハビリ室の同意と協力を取りつける必要もある」と言って、院内調整を引き受けてくれました。

この日、K君は内視鏡検査を見学

◆容態急変
「朝の病棟回診で衝撃を受けました」
こう語ったのはF君です。初日に入院する様子を見守った肺炎の患者さんの容態が一夜にして悪化、意識レベルが低下するほど衰弱していたのです。担当の日下伸明医師は「持病のせいもあり、とても危険な状態」と説明、ご家族に連絡することになりました。
 
「昨日の朝は話すことができていた人が、なぜ?」
患者本人に治療方針を確認できない場合、医師はどうするのか。容態についてどう伝えるべきなのか。延命治療の選択について、家族の本音を聞くことはできるのか……。知りたいことが尽きないF君は日下医師に次々と質問をぶつけました。
 
昼食後、F君とNさんが肺炎患者さんの病室に入ると、川島雄大看護師がベッドサイドでケアをしていました。大学院生でもある川島看護師は、上級看護師(ナース・プラクティショナー)の資格取得を目指して研修中。同じ病院宿舎に泊まっていることもあり、生徒たちにとって頼りになるお兄さん的存在です。
患者さんの手足をマッサージしている理由について、「ご家族が面会に来られたとき、温かい手に触れてほしいから」と説明してくれました。

川島看護師とナースステーションで

◆2日目の振り返り
この日の振り返りミーティングでは、二つのことが決まりました。
一つは、O君が計画しているピアノ演奏。江角院長の提案で、生徒全員が参加して「患者さんを励ますお楽しみ会」を開催することになりました。感染症対策に万全を期すことを前提に小規模なイベントが容認されたのです。

もう一つは、肺炎の患者さんについて。いよいよ危ないという状態になった場合、生徒代表でF君が看取りを体験することになりました。
患者さんは頑張って命を燃やし続けています。何とか持ち直してほしい──。回復を祈り、2日目は解散しました。