2022 地域医療体験レポート

2022年夏に志摩市民病院(三重県志摩市)で行われた地域医療体験のまとめです。

4人の高校生、志摩へ

2022年7月23日土曜日の午後2時過ぎ。紀伊半島の東部に位置する近鉄志摩線・鵜方駅に、全国から4人の高校生が到着しました。

◇「隣の芝生は青く見えるだけ、自分で選んだ道が一番」というO君(東京)
◇ 硬式テニス部部長のF君(長崎)
◇ ノルディックスキーでインターハイ・国体出場を目指すK君(大阪)
◇ 部活とボランティア大好き女子のNさん(徳島)

ぎらぎらとした陽ざしのなか、生徒たちを乗せた路線バスは美しいビーチで有名な御座白浜に向かって出発しました。といっても、一行の目的は観光ではありません。彼らはこれから5日間、志摩市民病院で地域医療を丸ごと体験するために集まったのです。

ここ志摩は全域が伊勢志摩国立公園に指定され、英虞湾の美しい風景で有名な観光地。2016年には先進国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)が開催され、毎年夏には大勢の観光客が訪れます。

しかし、日本のほかの地方都市と同じように人口減少に歯止めがかからず、志摩市民病院も医師と看護師不足に悩まされてきました。7年前の2015年末には、年間7億円の赤字と医師の一斉退職というどん底の状態にあったのです。

夏は観光客で賑わう志摩だが…

病院の規模縮小を迫られる中、ただ1人残った医師として奮闘してきたのが2014年末に赴任した江角悠太院長です。
「どんな患者さんも断らない」
「最期まで自分らしく生き、幸せに最期を迎えられる医療を提供する」
こんなモットーを掲げ、7年の歳月をかけてスタッフや地域の人々の信頼を勝ち取り、病院を再建しました。

難題に挑んだ江角院長の話を聞きたい、日本の医療のいまを学びたい──。そんな思いを胸に生徒たちはこの体験学習に参加しました。

本物の医療者と同じ準備を

路線バスに揺られること50分、生徒たちは目的地である志摩市民病院に到着しました。まず最初は月曜からの本格的な医療体験に向けたオリエンテーション。コロナ第7波の真っただ中に行われる体験学習のため、感染症対策の厳守と徹底は重要です。

守るべきルールはコロナ対策だけではありません。体験学習の期間中は、生徒一人ひとりが入院患者さんを受け持ち、患者さんとの交流を通じて地域医療の現実を学びます。個人情報と医療情報の取り扱いにも細心の注意が必要です。説明を受け、誓約書にサインしました。

緊張気味の初日オリエンテーション

夕方、キッチン付きの病院宿舎へ移動。これから1週間、昼食は病院でとりますが、朝食と夜食は自分たちで用意しなければなりません。助け合いながら料理したり、それぞれの夢や悩みを語り合ったり──高校生どうしの絆を深めるのも、この体験学習のスピリットといえます。
 
さすがにみんな、長旅と緊張で疲れている様子。長崎から参加したF君は12時間以上かけて志摩入りしたそうです。特別にこの日だけはTtFスタッフが夕食として4合炊きのご飯、スパイスカレー、サラダを用意。みんな、もりもり食べました!

男子高校生、自炊には自信アリ??

地域探訪─医療を知るために

翌24日(日)は地域探訪。早朝く、病院研修委員会の清水敦さんが迎えにきてくれました。
「地域医療を知るには、まず地域そのものを知らなければならない」
そう考えて、病院スタッフの方々が志摩探訪メニューを作ってくれたのです。

地域の主な産業は何か、何を食べてどのような土地に暮らしているのか──人々の日常に触れて初めて、求められる医療の在り方を垣間見ることができます。
 
最初の探訪先は宿舎近くにある和具漁港。漁協の大きな屋根の下では、揚がったばかりの魚の入札が始まりました。

威勢よく働く人々の中にも志摩市民病院の患者さんがいます。清水さんがある男性を「僕の患者さんなんですよ」と紹介すると、「研修がんばってな」と生徒たちに声をかけてくれました。

和具漁港で

少しずつ志摩の空気に馴染みはじめた生徒たち。目利き中の女性に質問をはじめたのはF君。魚の料理方法で話が弾みました。入港した漁船から活きのいいカツオがベルトコンベアで降ろされると、O君は漁師さんのもとへ。
「どこで捕れたのですか?」
「ここから15キロぐらい離れた漁場だよ」
 
漁港で水揚げを見学した後は、引退した海女さんのご自宅を訪問。豊かだったが過酷でもあったという海女の暮らしぶりや、時代とともに変化していった地域の歴史などについて教えてもらえました。

生徒4人と研修中の看護師らで、有名な海女さんだった方の自宅を訪問

昼食後、4人が向かったのは江角院長の自宅。体験学習が始まる前の特別講義です。

東京出身の江角院長がなぜ志摩で働くことを決意し、病院再建に向けて孤軍奮闘を始めたのか?少子高齢化が進む日本を元気にするために何が必要なのか?ここから世界を変えるには?──江角医師の熱い語りに、生徒たちはグイグイ引き込まれていきました。

江角院長の自宅で行われた講義