生徒たちのレポート(24夏・志摩市民病院)

2024年7月20日(土)から27日(土)にかけて志摩市民病院(三重県)で医療体験学習が行われ、高校生4人と医学生メンター1人が参加しました。

  • Kさん(東京・渋谷教育学園渋谷高2年)
    好きなことを極めて人の役に立ちたい
  • Hくん(愛知県・海陽中等教育学校 5年)
    目標は、バスケへの情熱を支えてくれた医師
  • Ftさん(大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎1年)
    優しく的確な助言ができる医師になりたい
  • Fmさん(福井県立高志高等学校2年)
    病気をきっかけに医療に興味を持った
  • Sさん(徳島大学医学部4年)
    高校時代に医療体験に参加し、「今回は私が高校生の面倒を見たい」と手を挙げてくれた

それぞれ何を経験し学んだのか──生徒たちの声を紹介します!

Kさん

小さい頃からテレビドラマやドキュメンタリーで医師の姿を見ていくなかで、なんとなく医師への憧れと人体への興味がありました。成長して将来のことを考えるうちに、自分が好きな分野を極めることができて、誰かの役に立てたと実感できる職業に就きたいと思うようになりました。将来の夢は?と聞かれたら医師と答えていますが、医師になってこうしたいという目標はなく、特に憧れている医師もいません。具体的な目標も決まっていない私が本当に医師を目指していいのか確かめるために、リアルな医療現場をこの目で見て、医師になったあとのことをたくさん想像して考えたいと思い、参加を決めました。


Hくん

父の友人である医師や、バスケットボールで怪我をした時にお世話になった先生の影響で医師を目指したいと思うようになりました。医療体験では、医師の方々が患者さんとどのようにコミュニケーションをとっているのかを見たいです。そして今の自分がやっていけるかどうかを試してみたい。理想に向かって努力しよう思えるのであれば進むし、もし勇気がなく覚悟が甘かったり、「自分が医師になってはいけない」と感じたなら、きっぱり諦めてほかの道へ進むべきだと考えています。医療についての情報を集め、自分に何ができるか集中して考えたいです。


Ftさん

私は今までたくさんの医師にお世話になってきました。的確に指示を出す姿に憧れますが、症状を治める薬を処方するだけならば、今後はAIがその役割を担うようになるかもしれません。その場合、医師が患者にできることは「人に寄り添うこと」だと思います。私はそれができるようになりたい。そして、自分が強い意志を持って困難を乗り切る覚悟があるのか試したいと思いました。家族や親せき、同年代の人としか関わったことがない私ですが、知らない人ばかりの多忙な医療現場で、大きな困難に自分をぶつけて、どうにかして解決しようとする力を育てたいです。社会に出て医師になる力があるのか、どうしても知りたいと思い参加しました。


Fmさん

医師がどのように患者さんとコミュニケーションをとっているのかを学びたいと思って参加を決めました。私は患者として医師に不満を持ったことがあるので、患者さんが志摩市民病院をどう思っているのかも知りたいです。また、研究医になりたいと思っているのですが、視野が狭くなっている気がしました。地域医療の最先端に触れることで新しい価値観や考え方を得たいと思いました。 

病院での初日、江角医師(右)に質問する生徒
Kさん

患者さんを幸せにするために、様々な職種の方々が関わっていることを肌で感じました。ベッドコントロールやカルテ回診、リハビリカンファレンスなどに参加して、一人の患者さんについて多くのスタッフが真剣に考えて、意見を出し合う様子を確認することができました。私も一人の患者さんを担当する中で疑問や不安、発見などがたくさん出てきましたが、朝の目標設定の時間や夕方の振り返りの時間などには、医師や医学生、看護師、看護助手、理学療法士の方々にアドバイスを頂くことができました。ソーシャルワーカーさんや管理栄養士さんと話す機会も多く、さまざまな場面で助けていただきました。


Hくん

なぜ医療従事者の方々が「先生」と呼ばれる職業なのかが分かった気がします。医療従事者の方々は自分のことよりも患者さんのこと、その家族のこと、地域のことを一番に考えていました。その姿が「先生」と呼ばれる所以なのだと思います。また、どんなに忙しくて疲れていても患者さんの前ではずっと笑顔でいるというのが印象的でした。医師というのは信用が命の職業だと思います。そういった職業を目指す身として、人としての部分でもっと成長しなければと思いました。


Ftさん

医療現場は医師のみの力で成り立っているのではなく、多職種の人がかかわって初めて患者さんを幸せにすることができると学びました。また、都会でもいずれは地方のような医療をするようになるのだと痛感しました。自分の数年後の「像」だけではなく、どんなふうに人生を終えたいのかについても、もう少し年を重ねれば考え始めないといけないなと感じました。

そして、ほかの人の人生も考えるようになりました。医療体験中、私はずっと担当した入院患者さんが何を思っているのか、何をしたら患者さんを幸せにすることができるのかと悩みました。友達でも家族でもない人のことをこんなに考え続けたのは初めての経験です。そして、相手が何を思っているのかまず話を聞いてみるようになりました。自分がどうしたいかも大切だけれど、主張しているばかりでは何も変わらないのだと思います。


Fmさん

率直にとても楽しかったです。人生の中で一番と言って良いほど充実した一週間でした。 今までにないくらい疲れたし、医療体験中は辛いと思うこともあった。自分に何ができるのか、何がしたいのかがわからず落ち込んでしまったりと色々なことがあった。でも、この体験を通して「やっぱり医師になりたい」という気持ちが強くなりました。

そして、「人のために動く」ことが参加前よりもできるようになったように思います。私はあまり想像力がなく、自分から何かをすることが苦手だと感じていました。ところが、担当患者さんのために「これをやったら喜んでもらえるかな」というアイデアがどんどん出てきて、「誰かのためを思って動く」ことは楽しいことなんだと実感しました。

一緒に参加した3人の積極性が本当にすごくて、それに感化された一週間でもありました。仲間との出会いを通して、もっと積極的になろうと思ったし、間違えることや人に聞くことは怖くないんだということが分かった1週間でした。

全体カンファレンスで患者さんについて共有する
Kさん

担当患者さんの退院に同行した時に見た、家の中の様子が目に焼き付いています。タバコのような匂いと湿気、柔らかくなった畳、掃除されていないポータブルトイレ。電源はONなのに中は冷えていない冷蔵庫、そして色々なものがあふれていました。病院で患者さんと話しているときに想像していた家とはかけ離れていました。

日本の高齢者や介護が必要な人たちの中には貧困やQOL が低い状態の人たちもいるという事実は認識していたけれど、そのことについて深く考えたことはありませんでした。衣食住を自力で整えることが難しい場合は誰かに頼らなければいけませんが、今回、充分にそれらの援助が受けられないケースがあるということを知りました。この現状を理解している人をもっと増やさなければいけないと思います。


Hくん

担当する患者さんを少しでも幸せにしてあげてください――。これが、病院から医療体験に参加した生徒たちに出された宿題です。そして、僕の担当患者さんはとてもしゃべるのが好きな男性で、ベッドサイドでの会話も弾みました。そこで、最初は「入院中は時間が余っているだろうから趣味などを中心に考えよう」とばかり考えていました。ところが、男性は家族や仕事のことを心配していて、時間を持て余すほど暇ではありませんでした。

このように最初から決めつけてしまうと、相手を幸せにするどころか不快な思いをさせてしまう恐れもあることに気づきました。「今年の夏は自分が入院しているせいで奥さんの負担が増えている。毎年孫がお盆に訪問してくるのを断ろうと考えている」。3日目に明かしてくれた胸中がきっかけで、患者さんの幸せは大切にしている家族のもとに1日でも早く元気になって戻ることだと感じました。そこで、僕はリハビリのお手伝いをしようと決めたのです。

患者さんが本当に望むことは?

Ftさん

私が担当した患者さんは90 代の女性。認知症があったため、最初は私が何を聞いても「わからない」と繰り返していました。でも何回も患者さんのもとへ行くうちに、「また来たの?」というように笑ってくれるようになり、最後にお別れをするときには、「元気でな」と言ってくれました。自分を気にかけてくれたことがとても嬉しかったです。

私が高校生であることは、患者さんにとってプラスにもマイナスにもなりうると思います。長い時間一緒にいることで、多忙な医師では引き出すことのできない患者さんの思いに触れることができます。一方で、私には医療知識がありません。例えば、目をつむっているとき患者さんを見て私は「眠いから寝ているのだろう」と思っていました。ところが、担当医から「意識障害の可能性がある」と指摘されました。患者さんを見る視点が一般人と医師では全く異なることに気づきました。


Fmさん

担当患者さんとお話する中で、日本の地理が曖昧なのかなと思う時がありました。「今度地図を持って来ましょうか?それを見ながらお話ししたいです」と言うと、すぐに「お願いします」と言ってくださいました。そこで私は手書きの地図を用意してベッドサイドに日参しました。最終日、患者さんとお話ししたことについて地図に書き込んだり写真を貼ったりしたものをラミネートしてプレゼントしたところ、とても喜んでベッドサイドに飾ってくださいました。

お別れの際に、「お互い頑張ろうなあ」と言ってくださったことも印象に残っています。私は医師になるための勉強を、患者さんは退院するためのリハビリを頑張るという意味です。「お互い」という言葉に患者さんのポジティブなところや希望をもって退院したいという気持ちが現れていて、とても嬉しかったです。

患者さんと日本地図を見ながら
Kさん

今回の医療体験で初めて診療看護師(Nurse Practitioner=NP)の存在を知りました。NPは大学院の診療看護師養成課程(修士)を修了して認定試験に合格することにより、一定の診療をおこなうことができる看護師のこと。江角先生は「総合診療医の看護師版」と表現していました。研修に来ていた男性看護師になぜNPを目指しているのか質問すると、「一人の患者さんと長く関わりたいから」という答えを聞くことができました。もともと救急の現場で働いていたそうですが、「救急は応急手当をしたら患者さんとの関わりがほとんど無くなってしまう。でもNPは患者さんを診療することもできるし、QOLを向上させるまで患者さんと関わることができる」と説明してくれました。

志摩市民病院には県外などの急性期の病院で働いていた方が多く、志摩に来たのは「患者さんとの距離が近い」「密接に関わることができる」という理由が多いように感じました。医療ドラマだと「大学病院の外科部長が飛ばされて地方に赴任」といった筋書きがあって、地方の転向はマイナスなイメージがありました。でも実際は、急性期の病院や海外留学などで技術を磨いた医療者が本当にやりたいことを求めて地方に移ることが多いと分かりました。


Hくん

「自分や世間にとっての当たり前が、特に認知症の患者さんなどには通じない」という江角先生の言葉が印象的でした。自分の担当患者さんは認知症ではありませんでしたが、実際僕もその患者さんのことを勘違いして勝手に決めつけている部分があったので、その言葉はとても響きました。

「もっと“なぜ”を追求しなさい」という言葉も印象的に残っています。僕の担当患者さんは感情の起伏が激しい方ではありませんでしたが、江角先生の訪問診察に同行した時、感情の起伏が激しい患者さんがいました。なぜ、あれほど怒ったり、また別の日はとても機嫌がよかったりと変化があるのか。それを江角先生に聞くと「なぜかを考えることがとても重要」「追求した先に大切なものが隠れています」と教えてくれました。


Ftさん

病棟看護の体験では、看護師長のお話から学ぶことがたくさんありました。一番印象に残ったのは、「できないと思った時でも、その思いを言葉にしてはならない。こうなりたいということは、声に出す。そうやって発言していれば、言ったことを実現させることができる」という言葉です。自分はネガティブな発言をしてしまうことが多いのですが、看護師長の考え方を聞いて、未来は自分の意志で作っていくのだなと思って感動しました。

また看護師長は、「協力できる医師になってほしい」とおっしゃっていました。医療現場は、様々な職種の人が働くことによって成り立っています。ほかの人がどんなことを思って働いているのかを知るために、多職種の職業体験をしてみるのもいいと思いました。


Fmさん

江角先生の「手当」が印象に残っています。朝の回診の時、江角先生は話をしながら患者さんにさりげなく触れて、話をしている間ずっと手を当てていました。その後患者さんのリハビリを見学していると、明らかにいつもよりも調子がいいように見えました。調子がよかった本当の理由は分かりませんが、私にはやっぱり「手当」もその一つだろうな、と思えました。

改めて先生方のコミュニケーションの取り方を見ると、みなさんユマニチュード(見る・話す・触れる・立つが4 つの柱であるということ)を実践されていることがわかりました。朝の回診で担当患者さんではない患者さんに挨拶をする機会を設けてくださって、そこでユマニチュードを実践することができました。

医療体験では、離島や遠隔地などへの訪問診療や訪問リハビリにも同行する。この日は退院を控えた患者さんの自宅へ。
Kさん

自分は比較的恵まれた環境で育ってきたと思います。その分色々な経験を積み、学んで社会に還元しないと、ただ消費して人生が終わってしまう。絶対に人の役に立てるような人にならなきゃいけないと思いました。

また今まで将来の医療についてあまり考えたことが無かったのですが、この医療体験では、高齢化社会が進んでいくとどんな医療が必要とされるのか、すごく考えました。医療機関をどのように整えるのか、公的年金や介護保険よりもっと人の生活を支えられるような仕組みはどうするのかなど、すごく難しい課題です。それらの課題の解決策を考えるとき、医療従事者がもっと政治に参入して適切な提案をしていくとより効果がある一手を打つことができるのではないか、そんなことも考えられるようになりました。


Hくん

参加前は、「とにかく腕の立つ医師になりさえすればいい」と思っていたのですが、江角先生曰く「腕はあって当たり前で、そこからさらに患者さんに寄り添える医師が求められている」。5日間の医療体験を通じて、しっかりと患者さんを見て、患者さんにあったやり方で寄り添える医師になりたいと思いました。

また、医師の方々が自分のことより相手のことを優先している姿を見て、もっと自分も人として成長していかなければいけないなと痛感しました。小さいころから言われている挨拶など当たり前のことをできるようになり、周りから「この人なら大丈夫だ」と信頼されるような人間になりたいと思ったし、その理想に向かって今の自分ではいけないと見つめなおすことができました。


Ftさん

この医療体験に参加するまでは、ドラマで見るような、最新の手法を使った外科手術をする医師に憧れていました。でも、これから高齢者が増えていって、手術をしないという選択をする人も増えるのではないかと思いました。そこで重要になってくるのは、どれだけ生きるかではなく、どんな風に生きるか。手術をしなかったとしても、患者さんを幸せにできる医師になりたい。また、少ない医師が協力して多くの患者さんをみないといけない状況下で、「これしかできない」という医師は使い物にならないなと感じました。どの分野でも患者を診ることのできる医師を目指します。


Fmさん

もともと私は地域医療に全くと言っていいほど興味がなく、「やりたい人がやればいい」という認識がありました。でもこの医療体験を通して、そのような考えではいけないと思うようになりました。日本の少子高齢化などの社会問題は深刻で、今のままの医療体制ではやっていけないこと、今の地方の医療体制が将来の日本のモデルであることなどを学びました。江角先生のお話を聞くなかで、地域医療を軸に日本の医療を変えていくこと、誰もが地域医療に携わろうとすることの大切さを感じました。

研究医になりたい、難しい怪我を治せる医師になりたいという夢に変わりはありませんが、それでも地域医療に少しでも携わりたいと思うようになりました。

修了証を手に医師らと記念写真
海岸で医学生メンターのSさんとポーズ