メンター医学生が見た高校生の発表[日本地域医療学会]

日本地域医療学会・第4回学術集会(10/12、新潟市)には、TtFの医療体験を経験した高校生や医学生メンターら34人が参加し、「高校生の医療体験セッション」では生徒5人が登壇して発表しました。この発表作りをサポートしたのが、同じ医療体験に参加した仲間たちと医学生メンターです。今回、南砺市民病院での学びを語ったI君の発表について、長崎大学医学部5年のメンターが振り返ってくれました。

長崎大学5年
(2025南砺市民病院・医療体験メンター)

この度、TtFの医学生メンターとして日本地域医療学会・第4回学術集会に参加し、高校生をサポートする機会をいただきました。その振り返りとして、私が見たことや考えたことをご紹介します。

1つ目は、学会前日の合宿についてです。TtFの医療体験に参加した高校生たち、医学生メンター、TtFスタッフが集まり、発表のブラッシュアップや他の医療体験に参加した高校生との交流などを行いました。

高校生たちの元々の気質か、アイスブレイクのおかげか、すぐに打ち解けることができ、活発な議論が行われました。各医療体験で共通することや異なることがそれぞれあり、各自の医療体験を見直す良い機会になったのではないでしょうか。

私が合宿を通じて注目したのは、ほとんどの高校生が医療体験中に壁にぶつかり、苦しんだということです。特に、明確な正解のない選択をどのように行うべきか、苦しんだ高校生が多かったように感じます。例えば、患者さんの意向と家族の意向が真逆であったり、患者さんの希望が医学的には非常に良くない選択であったり、完全に解決するのは非常に困難な課題ばかりでした。高校生たちは、それぞれの立場について分析し、医療スタッフに質問することでこの課題に立ち向かっていたようです。難しい問いに悩んだ経験とさまざまな視点から患者さんやご家族の幸せについて考えた経験は、医療の道に進む・進まないに関わらず、非常に良いものであったと思います。

日本地域医療学会の前日合宿で、ディスカッション内容について考える高校生たち

┃ 避けられない“死”の経験

2つ目は、私が担当した南砺医療体験に参加したI君の発表についてです。彼が担当した患者さんは医療体験中に逝去されました。前日まで元気にお話しされていたので、彼にとっては衝撃的な出来事であったと思います。その詳細や彼が考えたことについて発表をご覧いただきたいのですが、私が注目したのは、彼がこの経験をどのように消化するのかということです。

日本地域医療学会でのI君の発表

I君が今回の出来事について深く考える機会は、これまでに2回ありました。1回目は、医療体験中の振り返りです。彼は、患者さんが亡くなった後も精力的に動き、様々な職種の方に話を聞いていました。しかし、それが担当患者さんについて考えることを避けているようにも見受けられました。そこで、最終日の振り返り前に改めて落ち着いて考えるよう促しました。

それまでは、患者さんの死に対する自分の感情がよく分からなかったようですが、彼自身が患者さんにどのように向き合ったのか、患者さんの死後に何をしたのか、それが患者さんや患者さんの家族にとってどのようなものであったか、といったことについてじっくりと考えたことで、隠れていた本音を吐き出すことができたように感じます。

2回目は、学会発表の準備の時です。南砺医療体験に参加した高校生3人、理事長、私の5人でオンラインミーティングを重ね、発表作りを行いました。彼の発表草案では、担当患者さんについてほとんど触れられていませんでした。

しかし、同じ医療体験に参加したメンバー2人の意見を受け、彼は担当患者さんの死という出来事を軸にした発表に切り替えました。今度は、更に長い時間をかけ、その場にいなかった方や非医療従事者の方にも分かるよう、医療体験中の出来事や彼の考えを言語化することに挑戦しました。

担当患者さんの死亡診断書を作成する主治医を見守るI君。夕方のミーティングでは「初めての身近な人の死でした。患者さんのことを話そうとすると辛い気持ちでいっぱいになります」と振り返りました

┃ 仲間と作りあげたプレゼンテーション

さまざまな変遷はありましたが、最終的にたどり着いた「何があっても人の死を辛いと思う気持ちを忘れない」、「患者さんとご家族のために全力を尽くす」というまとめが、現時点で彼が患者さんの死から考えたことだと思っています。

実は、発表準備の際、医学的なこと以外に私がアドバイスしたことはほとんどありません。かといって、彼だけでこの発表にたどり着いたわけでもなく、同じ医療体験に参加した2人の高校生の力が大きかったのは間違いありません。医療体験を通じてチーム医療の大切さについて学んだ3人が、1つのチームとして発表を作り上げたことは非常に素晴らしかったと感じています。

今回出会った高校生たちが、医療体験から学んだことを将来の仕事や人との関わりに生かしてもらえればと思います(医学生になって、今度は医学生メンターとしてTtFに関わってくれたら個人的にとても嬉しいです)。

最後に、この医療体験にメンターとして関わることが出来たのは、私にとって非常に良い経験となりました。高校生や医療従事者、患者さんと関わる中で、これからの実習や仕事で何をするべきか、考えるきっかけとなりました。このような経験が出来たのも、南砺市民病院の皆様を始め、この医療体験に関わってくださった全ての方のおかげです。この場を借りて御礼申し上げます。

南砺市民病院・医療体験の最終日、修了証を手にした高校生3人と指導医4人と写真撮影